1997年12月17日

歌唱王ハオハミバー・1A

・アバンタイトル  「皐月! 起きろ!」  部屋のスピーカーから弥生の声がひびいた。皐月はたまのオフなのに、など と思いつつ、ねぼけまなこをこすった。  「ホラホラ、ポーッとしてんじゃないの! 早くメインオーダールームへ来 な!」  「わかったわよお」  皐月はパジャマを脱ぎながら、ふと思った。  「メインオーダールームって・・・。何?」 ・オープニング「歌唱王誕生!」(歌・ハミングバード) ・Aパート 第1話「歌唱王誕生!」  とりあえず、皐月はいつもの作戦指令室へと向かった。  先日まで改装工事が行われていたそこには、すでに姉妹たちがそろっていた。  「皐月、遅いわよ」  神無が注意をする。  「ごめんなさい。でもこんな朝早くからいったいなに?」a  「それはママが来たらわかるから。とりあえず、皐月の席はそこ」  弥生にうながされ、皐月はモニターやらキーボードやらが装備された机の前 の自分の席に座った。なぜだか妙に座り心地がいい。  「あれ、これって・・・」  「そ、3号機のシートだよ」  「なんで3号機のシートがここにあるのよ?」  「後でわかるって」  卯月と水無が笑いながら答える。なんだか釈然としないながらも、いつも座っ ているシートには安心感があった。  「おはよう。みんな、そろってるわね」  エレベーターのように下りてきた机と椅子に座っていた葉月が言った。  いつのまにこんな大がかりな仕掛けを作ったんだろう? 皐月はそんなこと を思ったが、口には出さなかった。  「みんな知ってると思うけど、某国の領域侵犯がここのところはげしくなっ ているわ。さらに未確認だけど、彼らは未知のテクノロジーによる新兵器を開 発中という情報も入っているの」  「新兵器って、どんな?」  「それについてはまだ詳しいことがわかってないわ。だからといってボーっ としているわけにもいかない。そういうわけで、防衛庁の許可のもと、ハミン グバード各機を強化することになったの」  「で、皐月の3号機の改良が終わったから、今日テストすることになったの よ。夕べメールでまわしたでしょ?」  葉月の説明に神無が補足をする。  「あー、そういえば、夕べは読まずに寝ちゃったような・・・」  皐月に冷たい視線が集まる。  「ま、いいわ。始めましょう。皐月、そこのレシーバーを着けて、机の発進 ボタンを押しなさい」  「は、はい!」  皐月は葉月に言われたとおり、机の上に置かれていたレシーバーを着けた。 外見は以前のものと変わりないようだ。  そして、机にあった「HB3」と書かれたボタンを押した。  「き、きゃあぁ!」  皐月の座っていたシートがいきなり床に吸い込まれた。  「ちょ、ちょっとぉ、何これぇ!」  皐月が座ったシートは、せまい通路を進んでいく。しばらく進むと、前方の シャッターが開いた。そこには見慣れた愛機、ハミングバード3号があった。  アームが皐月とシートを3号機のコクピットへと運ぶ。シートがロックされ るとキャノピーが閉まった。  「あー、びっくりした。ちょっとおおげさなんじゃない?」  作者がコン・バトラーVを見て育った世代なのだからしかたがない(笑)。  「皐月! 卯月みたいにぼけっとしてないで、発進準備!」  「あ、はい!」  「弥生お姉ちゃん、ひっどぉ~い」  指令室改めメインオーダールームで何やら騒いでいるようだが、皐月はいつ もどおりに発進準備を始めた。  「コンディションオールグリーン、発進準備よし!」  「3番カタパルトオープン」  「進路クリアー、3号機、いつでもどうぞ」  「3号機、皐月、いっきま~す!」  水無と卯月の指示を聞き、皐月は3号機を発進させた。  「皐月、どう? 新しい3号機は」  「パワーはあがってるけど、とくに問題ないみたい。絶好調よ」  いつもの訓練コースを飛びながら、皐月は神無の声に答える。  「それじゃ、テスト本番いくわよ」  「え? これがテストじゃないの?」  「あんたねぇ、これで終わりだったら、朝早くからやるわけないでしょ!」  弥生のツッコミにとりあえず納得した皐月だったが、どうも不安が拭えなかっ た。  「それじゃいくわよ。皐月、シートの横の赤いレバーを引きなさい。キーワー ドは『フュージョン』よ」  「キーワード? なんでそんなものが」  葉月の指示にとまどいながらも、皐月はレバーを握る。  「皐月の声が登録してあるの。システムが皐月に合わせてあるから、そのセー フティーみたいなものね」  「卯月、水無、3号機の様子をトレースして。おかしなところがあったらす ぐに知らせるのよ」  『了解で~す☆』  「ま、とりあえずやってみましょう。ええっと、『フュージョン!』」  皐月は掛け声と共にレバーを引く。すると、皐月はシートごと後ろへひっぱ られた。  「きゃあ! 今度はなに!」  中にいる皐月には見えなかったが、ハミングバード3号はその姿を変えていっ た。  足がのび、腕が出る。バーニアは後ろにまわってバックパックとなり、頭が 出てきた。  そして、胸に鳥の頭をかたどったエンブレムがついた、人型ロボットになっ ていた。 『ハミバァ~~~~~~~~~~~~ッ!』  「フュージョン、成功! 各部以上なし!」  「やったじゃん、皐月!」  卯月の報告に、メインオーダールームの一同は歓喜の声をあげる。  「ちょっとぉ、なによこれぇ!」  皐月はいままでとは違うコクピットに移動していた。目の前のスクリーンに は外の様子が映し出されている。コンソールには人型ロボットの絵が描かれて いた。  「皐月、それがハミングバード3号の特殊戦闘形態よ」  「特殊戦闘形態って、ひょっとして、今、3号機はこの絵のロボットになっ ちゃってるわけぇ?」  「そういうこと。皐月が乗っているのは、ちょうどその胸のあたりよ」  神無が説明してくれたが、皐月はあわてるばかりであった。  「ちょ、ちょっとぉ、あたし、ロボットの動かしかたなんて知らないよぉ!」  『大丈夫だって。さっきだってハミバーって、叫んでポーズ取ってたじゃな いか」  「あ・・・。そういえば・・・」  「皐月姉さんが着けてる、そのレシーバーが、操縦方法を姉さんの頭に伝え てるのよ」  「それって、まんまコンVだよね」  水無よ、キミはいったいいくつなんだ(笑)。  「とにかく、その形態を【ハミバー】と認定呼称するわ」  「ハ、ハミバー、ね」  「それじゃ、次のテストいくわよ」  「ええ! まだあるの!」  「フュージョンができたんだもの。大丈夫よ」  「で、何をやればいいの?」  葉月はスクリーンに写るハミバーを指差しながら叫んだ。 「『ファイナルフュージョン』よ!」 ・アイキャッチ  ハミングバード3号のイラストとスペック (Bパートに続く)