1999年5月24日

ポケットサイキッカー・熱闘編1

 暗闇の中に、一筋のスポットライト。それは、スツールに腰かける一人のスー ツ姿の男を浮かび上がらせた。  男はゆっくりとしゃべりはじめる。 「――みなさんは『サイキックファイト』をご存じでしょうか?  秘密結社ノアの活躍のおかげで、サイキッカー達は世間に認知される存在と なりました。サイキッカー達の厳しい冬の時代は終わりを告げたのです。  その後……。サイキッカー達の闘いは、ひとつの娯楽となりました。閉じら れた結界の中で、派手なエフェクトをまき散らして闘うサイキッカー達。その 姿が多くの人たちを虜にしたのです。  そしてついに、最強のサイキッカーを決めるべく、ひとつのトーナメントが 行われることとなりました。  これに優勝すれば、富と名誉が、その選手とジムに与えられることでしょう。  世間の噂では、やはりサイキッカーの老舗(笑)『ノアジム』が優勝最有力 候補として上げられています。しかし『シンセイノアジム』『カゲコウヤジム』 などもまた、強力な選手がいるとの噂。勝負の行方はまったくわからないので す……。  ――さあ、始まりの時間です!」  その男は、立ち上がりながら自らの上着をつかむと、一気に引きちぎるよう に脱ぎ捨てた。  その正体はだれあろう「黄色で先が黒いふんどし」一丁に「黄色で先が黒い うさみみ頭巾」のみを身につけた、六道――ピ○チュウのつもり――玄真であっ た。 「『第一回・サイキックファイト・ワールドトーナメント』! れでぃ~~~~~っ! ごおぉっ!!」 (ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!)  一部、お見苦しい点があったことをお詫びいたします……。 =================================== ポケットサイキッカー・熱闘編 第1話 かいさい! ワールドトーナメント! の巻 by Master =================================== 「ソニチュウ、エレクトリッガーだ!」 「はい! そこっ!」 「ぎゃあああああああああ!」 「KO! 勝者、『ノアジム』!」  レフリーが試合結果を告げると、会場であるスタジアムがどっとわいた。  優勝候補の一つである「ノアジム」が、第一回戦の相手である「カイザーナッ クルジム」を破ったのである。  敵に止めを刺したのは、ノアジムの人工サイキッカー「ソニア」が超能力強 化スーツ(ウォンお手製(笑))を身につけた、開発コードBRX-001PK「ソニ チュウ」であった。  なお、第一回戦の様子が飛ばされたのは演出であり、作者がカイザーナック ルのキャラを忘れたからではない。たぶん(をい)。 「よくやったな、ソニチュウ」 「あ、ありがとうございます、キースさまっ!」 「ちぇっ、オレの出番がねぇじゃねぇかよ。ちったぁ手加減しろよな」 「まあまあ、イワブラドくんの活躍は、後のお楽しみということにしようでは ありませんか」  ソニチュウと彼女のトレーナーであるキース。イワブラドことブラドと、彼 のトレーナーであるウォン。この4人がノアジムの代表メンバーであった。  元秘密結社ノアということもあり、実力・人気ともにかなりのものである。  ただ……。 「さあ、これに優勝して、しっかりと賞金をいただきましょう」 「……ジムになっても、経済的にはまだ苦しいままですね……」 「まあ、もともと営利団体ではなかったからな……」  このびんぼーくささが唯一の弱点であった(笑)。  その他のブロックも着々と試合が進み、スタジアムは興奮の坩堝と化していっ た。  そんなスタジアムを眼下に見下ろす崖のうえに、ふたつの小さな人影が。  その影とは、吹きすさぶ風におさげを揺らす少女と、おかっぱ頭の少年であっ た。  なぜこんなところに崖があるのかは謎である。 「くうう~、盛り上がっちゃってぇ~。あたしたちが出られないってのに、なん かくやしいわね」 「しかたないよ、ウェンディー。参加費が払えなかったんだから」 「エミリオったら、わかってるわよ。これというのもバーンがまじめにバイト しなかったせいねっ!」 「バーンはちゃんと働いてたって。ウェンディーが無駄使いするから……」 「あー、もー、うっさいわねぇ! ンなことはどうでもいいのよ! あたした ち『アンチノア』が参加できないくらいなら、こんな大会ブッ潰してやるわっ!」  拳を握りしめながら、決意を口にするウェンディー。エミリオはその後ろで、 ためいきをついていた。 「それじゃエミリオ、『あれ』の練習をしておきましょう」 「あ、あれって……。ホントにやるの?」 「あったりまえでしょ! 何のために今まで練習してたと思ってるのよ」 「あれって、あんまり意味ないような気がするんだけど……」 「こーゆーのはお約束なんだから、気にしちゃダメなのっ! いくわよ!」  ウェンディーは崖の上で一歩踏みだしつつ、ポーズを取りはじめた。 「世界の破壊を防ぐため! ……ほら、エミリオ!」 「う、うん……。 世界の平和を守るため!」 「愛と真実の悪を貫く!」 「ラブリーチャーミーな敵役!」 「ウェンディーと!」 「エミリオ!」 「銀河を駆ける『アンチノア』には!」 「『アークエンゼル』! 輝く明日が待っている!」  ピシャアアアアアン! 背景に稲妻が走った! ……ような気がした。 「いやー、決まった決まった! 本番でもこの調子でね!」 「……」  胸を張って機嫌よく笑うウェンディーの後ろで、さすがに恥ずかしかったの か、赤い顔でうずくまるエミリオであった。  ウェンディーは腰に付けていた「サイキックボール」を外すと、ボールの中 央にあるスイッチを押した。  サイキックボールとは、サイキックファイトに出場するサイキッカーが休憩 や調整をするためのものである。また、トレーナーがサイキッカーを試合会場 まで運ぶための手段にもなっている。これなら移動で消耗することなく、最初 から全力で闘えるのである。  サイキックボールの中は快適だというが、なかにはこれに入ることを嫌うサ イキッカーもいたりする。 「いくわよ、バーン!」  ウェンディーがボールを投げると、ボールが開き、中から炎の矢が飛びだし た。 「よっしゃぁ! やっと出番だぜぇ!」  炎と共に登場したのは、バーンであった。 「ふっ、やっぱりヒーローは最後にカッコよく登場しないとな!」 「ねえ、バーン。それはいいんだけど……」 「なんだ、ウェンディー?」 「……その額の『小判』は何なのよ?」  ウェンディーの指摘どおり、なぜかバーンの額には1枚の小判が張りついて いた。 「なんだ、知らねぇのか? 今アメリカじゃ、これが大流行なんだぜ。ヒーロー はファッションにもうるさくないとな。おれのことは『ニャース=バーン』と 呼んでくれ」  なんでやねん、と、心のなかでツッコミを入れるウェンディーとエミリオで あった。 「ま、それはそれとして。トーナメントブッ潰し大作戦、開始よ!」  ウェンディーの掛け声と共に、アンチノアの3人は、崖のうえから飛びだし た。  舞台はふたたびスタジアム。  試合を終えたノアジムの一行は、休憩を取っていた。 「今日はもう試合はないようだな」 「はい、今日は全試合、第一回戦だけですから」 「第二回戦の対戦相手も同時刻に試合をしていましたから、偵察できませんで したしねぇ」 「ンなもんはどうでもいいんだよ。明日はオレが先に出るからな!」  今日の試合がもうないことを確認すると、キースは立ち上がった。 「それでは、食事でもして帰ろうか」 「はい、キースさま!」 「そうそう、食事と言えば。そろそろツケを払っていただけませんかねぇ、キー スさま」 「? おまえにツケなんかあったか?」 「何をおっしゃっているんです。いつもうちの系列の店で食事をされて、ツケ にされているじゃありませんか」 「な、なに(汗)。 それじゃあの店は、ウォンの会社だったのか?」  そんな会話を交わしながら、ノアジムの4人はスタジアムを後にするのであっ た。  トーナメント第1日目の試合は滞りなく終わり、観客たちもまた、明日から も繰り広げられるであろう激闘を楽しみにしつつ、帰途についた。  すっかり日も暮れたころ。  静まり返ったスタジアムに3つの影が現れた。 「はあはあ…… お、思ったよりも…… 距離が…… あったわね……」 「ね、ねぇ…… も、もう…… 誰も…… いないみたいだけど…… はあは あ……」 「し、しかたねぇ…… とりあえず…… はあはあ…… 今日のところは……  出直しだ……」  こうして、アンチノアの3人もまた、帰らざるをえないのであった。 つづく ☆次回予告 大会2日目、ノアジムは第二回戦の相手「カゲコウヤジム」に挑む! 栞トレーナー繰る「ゲンアン」「ゲンシン」の実力とは! そして、アンチノア一同は、みごと大会を潰すことができるのか! がんばれアンチノア! 作者は個人的に応援しているぞ(まて)! 「ポケットサイキッカー・熱闘編」 第2話 きょうてき! カゲコウヤのきょうだいせんしゅ! の巻 次回も「サイキッカー・ゲットだぜ(謎)!!」

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