2000年1月 4日

デ・ジ・エミリオ

 200X年。ついにタイトーはグッズショップを展開することになった。  ショップに必要なのは、やはりマスコットキャラクター。ならば、タイトー で人気のこのキャラを使うしかあるまい!  その日、ついに魔都「アキハバラ」に第1号店が開店した。  エプロンドレスにねこみみ・ねこしっぽを着けた、そのマスコットキャラ兼 店員の名は! 「デ・ジ・エミリオで~す! ショップ・タイトーをよろしくお願いしますにょ~!」 =================================== デ・ジ・エミリオ by Master =================================== 「ふう、やっぱり開店セールはお客さんがいっぱいで大変だにょ」  そう言って肩をたたくデ・ジ・エミリオ(通称えみこ)。今はちょっとした アイドルタイム(お客さんが少なくなる時間のこと)であった。 「ぱてぃこちゃん、商品整理をお願いするにょ」 「わかったにゅ」  デ・ジ・エミリオ(めんどうなので以下エミリオ(笑))の指示に従うのは、 もうひとりの店員「ぱてぃこ」こと「プ・チ・パティ(以下パティ)」であっ た。  パティが商品整理をしていると、出入口に不審な人影を見つけた。 「えみこさん、何かヘンなひとがいますにゅ」 「お客さんなら、ちゃんと並んでほしいにょ」 「あんな不審なお客さんはいないゲマ」  最後のセリフは3人目の店員、ウェンディーであった。なぜか丸くて黄色い 着ぐるみを着ているのだが(笑)。 「……てゆーか、なんであたしがこーゆー役なんだか……」  それはさておき(笑)。  そのセリフを聞いたエミリオは、判断をくだした。 「ということは、万引き野郎だにょ。目からビーム!」  出入口に向けて、エミリオの目から一筋の光が飛びだした。そう、エミリオ は特訓によってサイキック能力を高めたため、目からシーカーレイを撃てるよ うになっていたのだった。  光が出入口付近に着弾(?)し、爆発を起こした。 「あちゃちゃちゃちゃ! あ、あぶないじゃないのっ!」  煙の中からレオタードのような服を着て、うさみみを着けた女性が飛びだし た。 「万引きではなかったみたいですにゅ」 「でも、やっぱりお客さんでもないみたいゲマ」 「つまり、単なる変質者だにょ。目からビー……」 「ええい、その短絡思考はやめんかっ! 自己紹介くらいさせなさい!」 「変質者のくせにえらそうだにょ」 「変質者ではないとゆーに!」  女性はひとつ咳払いをすると、豊かな胸を張りつつ、自己紹介をはじめた。 「わたしの名は『ソ・ニ・アン・ローズ』! 隣に開店した『ノアーズ』のマ スコットキャラ兼アキハバラのアイドルよ! 今日のところはこの店のお客さん をいただきにきたわ!」 「はいはい、『うさだソニア』さんはさっさと自分の店に戻るにょ」  ポーズを決めていた「ソ・ニ・アン・ローズ」ことソニアは、エミリオのそ の声にズッこけた。 「なぜわたしの本名をッ! はっ、まさかストーカーがッ!」  ちなみに、ソニアの胸には店の名札が付いていたりするのだが、それはそれ。  半分あきれた顔でエミリオがたずねる。 「で、結局何しに来たんだにょ?」 「ひとの話きーとんかいっ! この店のお客さんをいただきに来たのよっ!」  そう言ってソニアは店内にビラをまいた。  ビラはひらひらと宙を舞い、店内にいたオタク^H^H^Hお客さんたちに降りか かる。  そのビラを見たお客たちは、おおっ!と声をあげ、我先に店を出ようと走り はじめた。 「ななな、何があったんだにょ!」 「……えみこさん、これだにゅ」  パティが差し出したそれは、ソニアがばらまいたビラであった。 「こ、これは何だにょ~!」 『本日『ノアーズ』で1万円以上お買い上げのお客様に 美人店員の『ぱふぱふ』大サービス中!』  そう、そのビラにはそう書かれていたのであった。 「ホーッホッホッホ! お客さんはいただいていくわよ!」 「こんなことしてはずかしくないのかゲマ」 「ふっ、オトナの女性にはこれくらいなんてことないわ。つるぺたふたりに実 は男(笑)のそっちには、できないサービスでしょ!」  実際、それくらいのサービスがないと生き残れないであろう魔都アキハバラ であった。 「えみこ、どーするゲマ」 「ううむ、こうなったら……」  エミリオがお客に向かって声をあげる。 「うちで買ってくれたお客さんには、 ぱてぃこが『ふきふき』大サービスだにょ~!」 =================================== ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! (しばらくお待ちください) =================================== 「えみこ、どーするゲマ」 「ううむ、こうなったら……」 「あのぉ……」  パティがおずおずとエミリオにたずねる。 「『ふきふき』って、なんですかにゅ?」 =================================== ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! (しばらくお待ちください) =================================== 「えみこ、どーするゲマ」 「ううむ、こうなったら……」 「なんか、さっきも同じセリフを聞いたような気がするにゅ」 「それは気にしちゃいけないゲマ(汗)」  大宇宙の意志には逆らわない方がいいぞ、ぱてぃこ(笑)。  それはさておき、エミリオは突然店の外に出ると、隣のノアーズ前に立った。 一同も外に出て、エミリオが何をするのかを見守っている。 「こうなったら実力行使! 『目からアークエンゼル』ッ!」  エミリオの目から放たれた光が、ノアーズの建物を集まったオタク^H^H^Hお 客と共に吹き飛ばした。  アキハバラにおいて、店ができたりなくなったりするのは日常茶飯事である。 「ああっ! お店がぁ!」  茫然とするソニアの前で、エミリオはVサインと共に言い放った。 「悪は必ず滅びるんだにょ!」  こうして、デ・ジ・エミリオは見事店を守りきった。  そして今日もまた、アキハバラにその声が響きわたる。 「いらっしゃいませ~! ショップ・タイトーにようこそだにょ~!」 Fin

1999年6月10日

Access

 深夜のノア本部。そこで彼は戦っていた。  強い…… なんという強さだ……。  キースの背に寒いものが走った。もはや敗北は目前。しかし、彼は逃げるこ とはできなかった。  目の前には勝利を確信して笑いを浮かべる男がいた。その男、ウォンは眼鏡 を右の人指し指で軽く押し上げ、笑みを浮かべたまま――しかし冷たく――キー スに向かって言った。 「もうおしまいですか、キースさま? もう少し楽しませていただけるかと思っ ていたのですがねぇ」 「くっ…… まだだ! まだ終わらんよ!」  ウォンはキースの全身から、まだ消えぬエネルギーを感じた。いったい何が 彼をここまでさせるのか。 「きみの力は見切ったよ……」 「ほぅ。では、お手並み拝見と参りましょうか」  やはり、ウォンの笑みは崩れない。  キースはゆっくりと、右手を挙げた。  そのキースの右手がデッキからカードを1枚引く。手札に来たカードを見て、 キースは次の行動にうつった。 「よし、【智子】と【志保】を消耗させてコストをふたつ払って【スカウト】 を使うぞ」  キースはデッキを手に取り、その中から1枚のカードを抜き取った。デッキ をシャッフルし、元の位置に戻す。 「今度はリーダーの【琴音】ちゃんを消耗させて、スカウトしてきた【応急手 当】だ! これで【琴音】ちゃん自身の気力を4点回復……」 「あ、その【応急手当】を【ガセネタ】しましょう」 「ぐはぁっ!」  キースは血を吐きながら後ろに倒れた。 「おや、もうそちらはおしまいですか? ではこちらのターンですね。【マル チ】でバトルを宣言します。そちらは全員消耗していますから、リーダーの 【琴音】で受けるしかありませんね。では種目は【熱湯風呂】。あ、もちろん マルチの特殊能力[応援]を使って、《根性》に+1しますからね。……【琴 音】の気力が0になりましたねぇ。これでわたしの勝ちですね」  キースがゆっくりと起き上がってきた。 「くうう…… もう一回だ! もう一回勝負だ!」 「やれやれ。今のキースさまの腕前では、わたしの『マルチちゃん萌え萌え熱 湯風呂デッキ』には勝てませんよ」 「何を言うか。今度こそ『琴音ちゃん超能力ちくちくデッキ』の力を見せてや る!」  こうして、今日もノアの夜は平和に過ぎていくのであった。 めでたしめでたし

1999年5月24日

ポケットサイキッカー・熱闘編1

 暗闇の中に、一筋のスポットライト。それは、スツールに腰かける一人のスー ツ姿の男を浮かび上がらせた。  男はゆっくりとしゃべりはじめる。 「――みなさんは『サイキックファイト』をご存じでしょうか?  秘密結社ノアの活躍のおかげで、サイキッカー達は世間に認知される存在と なりました。サイキッカー達の厳しい冬の時代は終わりを告げたのです。  その後……。サイキッカー達の闘いは、ひとつの娯楽となりました。閉じら れた結界の中で、派手なエフェクトをまき散らして闘うサイキッカー達。その 姿が多くの人たちを虜にしたのです。  そしてついに、最強のサイキッカーを決めるべく、ひとつのトーナメントが 行われることとなりました。  これに優勝すれば、富と名誉が、その選手とジムに与えられることでしょう。  世間の噂では、やはりサイキッカーの老舗(笑)『ノアジム』が優勝最有力 候補として上げられています。しかし『シンセイノアジム』『カゲコウヤジム』 などもまた、強力な選手がいるとの噂。勝負の行方はまったくわからないので す……。  ――さあ、始まりの時間です!」  その男は、立ち上がりながら自らの上着をつかむと、一気に引きちぎるよう に脱ぎ捨てた。  その正体はだれあろう「黄色で先が黒いふんどし」一丁に「黄色で先が黒い うさみみ頭巾」のみを身につけた、六道――ピ○チュウのつもり――玄真であっ た。 「『第一回・サイキックファイト・ワールドトーナメント』! れでぃ~~~~~っ! ごおぉっ!!」 (ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!)  一部、お見苦しい点があったことをお詫びいたします……。 =================================== ポケットサイキッカー・熱闘編 第1話 かいさい! ワールドトーナメント! の巻 by Master =================================== 「ソニチュウ、エレクトリッガーだ!」 「はい! そこっ!」 「ぎゃあああああああああ!」 「KO! 勝者、『ノアジム』!」  レフリーが試合結果を告げると、会場であるスタジアムがどっとわいた。  優勝候補の一つである「ノアジム」が、第一回戦の相手である「カイザーナッ クルジム」を破ったのである。  敵に止めを刺したのは、ノアジムの人工サイキッカー「ソニア」が超能力強 化スーツ(ウォンお手製(笑))を身につけた、開発コードBRX-001PK「ソニ チュウ」であった。  なお、第一回戦の様子が飛ばされたのは演出であり、作者がカイザーナック ルのキャラを忘れたからではない。たぶん(をい)。 「よくやったな、ソニチュウ」 「あ、ありがとうございます、キースさまっ!」 「ちぇっ、オレの出番がねぇじゃねぇかよ。ちったぁ手加減しろよな」 「まあまあ、イワブラドくんの活躍は、後のお楽しみということにしようでは ありませんか」  ソニチュウと彼女のトレーナーであるキース。イワブラドことブラドと、彼 のトレーナーであるウォン。この4人がノアジムの代表メンバーであった。  元秘密結社ノアということもあり、実力・人気ともにかなりのものである。  ただ……。 「さあ、これに優勝して、しっかりと賞金をいただきましょう」 「……ジムになっても、経済的にはまだ苦しいままですね……」 「まあ、もともと営利団体ではなかったからな……」  このびんぼーくささが唯一の弱点であった(笑)。  その他のブロックも着々と試合が進み、スタジアムは興奮の坩堝と化していっ た。  そんなスタジアムを眼下に見下ろす崖のうえに、ふたつの小さな人影が。  その影とは、吹きすさぶ風におさげを揺らす少女と、おかっぱ頭の少年であっ た。  なぜこんなところに崖があるのかは謎である。 「くうう~、盛り上がっちゃってぇ~。あたしたちが出られないってのに、なん かくやしいわね」 「しかたないよ、ウェンディー。参加費が払えなかったんだから」 「エミリオったら、わかってるわよ。これというのもバーンがまじめにバイト しなかったせいねっ!」 「バーンはちゃんと働いてたって。ウェンディーが無駄使いするから……」 「あー、もー、うっさいわねぇ! ンなことはどうでもいいのよ! あたした ち『アンチノア』が参加できないくらいなら、こんな大会ブッ潰してやるわっ!」  拳を握りしめながら、決意を口にするウェンディー。エミリオはその後ろで、 ためいきをついていた。 「それじゃエミリオ、『あれ』の練習をしておきましょう」 「あ、あれって……。ホントにやるの?」 「あったりまえでしょ! 何のために今まで練習してたと思ってるのよ」 「あれって、あんまり意味ないような気がするんだけど……」 「こーゆーのはお約束なんだから、気にしちゃダメなのっ! いくわよ!」  ウェンディーは崖の上で一歩踏みだしつつ、ポーズを取りはじめた。 「世界の破壊を防ぐため! ……ほら、エミリオ!」 「う、うん……。 世界の平和を守るため!」 「愛と真実の悪を貫く!」 「ラブリーチャーミーな敵役!」 「ウェンディーと!」 「エミリオ!」 「銀河を駆ける『アンチノア』には!」 「『アークエンゼル』! 輝く明日が待っている!」  ピシャアアアアアン! 背景に稲妻が走った! ……ような気がした。 「いやー、決まった決まった! 本番でもこの調子でね!」 「……」  胸を張って機嫌よく笑うウェンディーの後ろで、さすがに恥ずかしかったの か、赤い顔でうずくまるエミリオであった。  ウェンディーは腰に付けていた「サイキックボール」を外すと、ボールの中 央にあるスイッチを押した。  サイキックボールとは、サイキックファイトに出場するサイキッカーが休憩 や調整をするためのものである。また、トレーナーがサイキッカーを試合会場 まで運ぶための手段にもなっている。これなら移動で消耗することなく、最初 から全力で闘えるのである。  サイキックボールの中は快適だというが、なかにはこれに入ることを嫌うサ イキッカーもいたりする。 「いくわよ、バーン!」  ウェンディーがボールを投げると、ボールが開き、中から炎の矢が飛びだし た。 「よっしゃぁ! やっと出番だぜぇ!」  炎と共に登場したのは、バーンであった。 「ふっ、やっぱりヒーローは最後にカッコよく登場しないとな!」 「ねえ、バーン。それはいいんだけど……」 「なんだ、ウェンディー?」 「……その額の『小判』は何なのよ?」  ウェンディーの指摘どおり、なぜかバーンの額には1枚の小判が張りついて いた。 「なんだ、知らねぇのか? 今アメリカじゃ、これが大流行なんだぜ。ヒーロー はファッションにもうるさくないとな。おれのことは『ニャース=バーン』と 呼んでくれ」  なんでやねん、と、心のなかでツッコミを入れるウェンディーとエミリオで あった。 「ま、それはそれとして。トーナメントブッ潰し大作戦、開始よ!」  ウェンディーの掛け声と共に、アンチノアの3人は、崖のうえから飛びだし た。  舞台はふたたびスタジアム。  試合を終えたノアジムの一行は、休憩を取っていた。 「今日はもう試合はないようだな」 「はい、今日は全試合、第一回戦だけですから」 「第二回戦の対戦相手も同時刻に試合をしていましたから、偵察できませんで したしねぇ」 「ンなもんはどうでもいいんだよ。明日はオレが先に出るからな!」  今日の試合がもうないことを確認すると、キースは立ち上がった。 「それでは、食事でもして帰ろうか」 「はい、キースさま!」 「そうそう、食事と言えば。そろそろツケを払っていただけませんかねぇ、キー スさま」 「? おまえにツケなんかあったか?」 「何をおっしゃっているんです。いつもうちの系列の店で食事をされて、ツケ にされているじゃありませんか」 「な、なに(汗)。 それじゃあの店は、ウォンの会社だったのか?」  そんな会話を交わしながら、ノアジムの4人はスタジアムを後にするのであっ た。  トーナメント第1日目の試合は滞りなく終わり、観客たちもまた、明日から も繰り広げられるであろう激闘を楽しみにしつつ、帰途についた。  すっかり日も暮れたころ。  静まり返ったスタジアムに3つの影が現れた。 「はあはあ…… お、思ったよりも…… 距離が…… あったわね……」 「ね、ねぇ…… も、もう…… 誰も…… いないみたいだけど…… はあは あ……」 「し、しかたねぇ…… とりあえず…… はあはあ…… 今日のところは……  出直しだ……」  こうして、アンチノアの3人もまた、帰らざるをえないのであった。 つづく ☆次回予告 大会2日目、ノアジムは第二回戦の相手「カゲコウヤジム」に挑む! 栞トレーナー繰る「ゲンアン」「ゲンシン」の実力とは! そして、アンチノア一同は、みごと大会を潰すことができるのか! がんばれアンチノア! 作者は個人的に応援しているぞ(まて)! 「ポケットサイキッカー・熱闘編」 第2話 きょうてき! カゲコウヤのきょうだいせんしゅ! の巻 次回も「サイキッカー・ゲットだぜ(謎)!!」

1999年4月25日

サイキックフォース2

 それは、バーンのアパートに届いた一通の手紙から始まった。 「ちょっとちょっと、バーン、エミリオ! 出演依頼だよ! ほら、今度は 『サイキックフォース2』だって!」 「ほんとかよ、ウェンディー。どれどれ……。お、ホントだな。今度はおれに も最初から来てるじゃねぇか」 「へえ、また出演させてもらえるんだね」 「今度はちゃんと衣装があるんだろうなぁ。2012の時は予算がないとかで、お れだけ前と同じ衣装だったからなぁ……」 「ねえ、ぼく、またメ○ルスーツを着ないといけないのかな?」 「え~っと……。2012をベースにするって書いてあるから、そうなんじゃない かな。……あら、ソニアお姉ちゃんたちも出演するんだ」 「そのとおりよ!」  アンチノアの3人がその声のした方へ振り向くと、窓からソニアが入ってき た。 「お、お姉ちゃん!」 「……ドアから入ってきてくれねぇかな?」 「うふふ、前回は残念ながら出られなかったけど、今回はサイキックフォース 真のヒロイン、ソニアの復活なのよ!」  どうやらすでに自分の世界に没頭し、バーン達の声は耳に届いていないらし い。 「そうよ、今度こそキースさまとらぶらぶエンディング! そしてそのままパ ソコン版に移植され、そこで既成事実を作って、あたしは晴れて総帥婦人!」 『をいをい……』  すでにアンチノア3人は呆れ顔であった。 「……ところで『きせいじじつ』って、なあに?」 「……おめぇもオトナになったらわかるよ……」 「そういえば、お姉ちゃん、最近(ピーッ)キロ太ったって言ってなかったっ け?」 (ぎくぅ!)  ウェンディーのなにげないひと言に、ソニアは固まってしまった。 「え? そうなのか?」 「うん、前回出られなかったからヤケ食いして、太っちゃったって……」 「そういえばソニアさん、ちょっとふくよかになっているような……」 「いっ、いやああああぁぁぁぁぁぁぁ! こんな姿、キースさまにお見せでき ないいいいいぃぃぃぃぃっ!!」  頭を抱えて叫びだすソニア。  まずったかなー、と思いつつも、まあ自業自得よね、と思いなおすウェンディー であった。 「困ったときに、リチャード=ウォン!」  ちょうどその時、そんな声と共に、ウォンがキッチンから現れた。 「……なんでおめーらはちゃんと玄関からはいらないんだよ……」 「そんな小さなことを気にしていては、大きくなれませんよ。それはそれとし て、ソニア、あなたのボディを作ったのはこのわたし。わたしの手にかかれば 問題はありません。これを『心配無用』と言います」 『いわねーよ』  まるで打ち合わせてあったかのように全員がツッこむ。 「ウォン特製『スグヤセール』(SE:ビカビカビカー(C)ド○えもん)!! こ れを飲めばすぐに標準体重になるというすばらしい薬です!」  うっわー、うさんくさいネーミング! と、全員が思ったのは言うまでもな い。 「……ちょっと怖いけど、キースさまのために飲むわ!」 「お、お姉ちゃん、やめた方が……」  ウェンディーの制止も聞かず、ソニアはビンの中身を一気に飲み干した。  かたん、と、ソニアの手からビンが落ちる。 「お、お姉ちゃん?」 「う、うううっ……」  しゃがみこんで苦しみだすソニア。一同は心配そうにソニアを見つめる。 「う、うあああああああっ!」 「お、お姉ちゃん!」  ぼふっ! と煙が立ちのぼる。が、すぐに煙は晴れた。 『な、なんじゃこりゃあ!』  そこにいたのは、異常なまでに髪が伸びたソニアであった。 「おっと、どうやらわたしが興味本位で作った毛生え薬と間違えたようですね」 「ふぅ~ん」 「興味本位ねぇ~」 「……」  なぜだか一同はウォンの額を見つめる。  その時、ソニアがゆっくりと顔を上げた。 「ウ……ォ……ン……」  その声は、地面から響いてくるがごとく低いものであった。 「うらああああああああああああっっっっっっっっっっっっっ! ウォン!  てめぇ、何飲ませやがったあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 『うっわー! なんだなんだなんだぁ!』  その恐ろしい声は、あろうことかソニアのものであった。美しい顔は鬼のよ うな形相になっていた。 「おや、パティで実験したときは問題なかったのですが、どうやらバイオロイ ドとは相性が悪いようですね。加えて作者が最近『痕マスター』になったせい もあるのでしょうが(笑)」 『どひいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』  バチバチと放電しながら、ソニアはゆっくりと一同に近づいてきた。 「どうやらわたしは消えたほうがよさそうですね。では……(しゅわん)」 「ああ! て、てめぇ、ひとりだけ逃げてるんじゃねぇ!」 「お、お姉ちゃん、正気に戻ってぇ!」 「あ~ん、怖いよぉ!」 「うらああああああああああああああああああああああああああああああ!」 『や、やなかんぢいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!』  その日、バーンの部屋から轟音が響きわたったという。  一方、そのころキースは……。  隠しキャラの「殺意の波動に目覚めた琴音」で「Heart by Heart」を遊んで いるのであった。  めでたしめでたし。

1999年4月11日

Feeling Heart 裏版

 ノア本部のある夜。  廊下を歩いていたソニアは、キースの部屋から明かりが漏れているのに気付 いた。 「まだ起きていらっしゃるのですか? キースさま?」  軽くノックして部屋を覗くソニア。  紫色の髪と赤い瞳の少女のポスターが貼られまくれ、同じ少女のフィギュア が所狭しと並べられたその部屋に、ソニアは軽い目眩を覚えた。  机についたまま、キースは眠っていた。プレイステーションのコントローラー はその手に握りっぱなしになっており、ディスプレイには「僕たち友達だよね」 と、さわやかに微笑むかわいらしい少年の姿が表示されている。 「もう……(怒)。あまり無理をされると、お身体にさわりますよっ!」  こめかみに怒りの四つ角を浮かべつつも、ソニアは毛布を取って、キースに かけようと近づいた。  その時、キースが何かつぶやく。 「……琴音ちゃぁん……。せっかく救ってあげようと思っているのにぃ……。 こんなに大好きなのにぃ……。なんで出てこなくなるんだぁ……」 ぶちぃっ!!  ソニアの中で、何かがキレた。  次の瞬間、キースの部屋は轟音に包まれた。  翌朝。  キースは目を覚ました。  キッチンへ向かうと、すでにウォンが新聞を読んでいた。 「おはようございます、キースさま。……おや、急にアフロヘアになさって、 いったいどうされたのです?」 「いや、わたしにもよくわからないのだが、朝起きたらいつのまにか……」  その日一日、なぜかソニアは不機嫌だったという。 おしまい

Feeling Heart

 ノア本部のある夜。  廊下を歩いていたソニアは、キースの部屋から明かりが漏れているのに気付 いた。 「まだ起きていらっしゃるのですか? キースさま?」  軽くノックして部屋を覗くソニア。  殺風景なキースの部屋。  机についたまま、キースは眠っていた。パソコンの電源は入れっぱなしになっ ており、ディスプレイには今後の計画についての書類が表示されている。 「もう……。あまり無理をされると、お身体にさわりますよ」  ソニアは毛布を取って、キースにかけようと近づいた。  その時、キースが何かつぶやく。 「……ソニア……」 「え? い、いやだ、キースさま、起きていらしたのですか?」  顔をまっかにしてうろたえるソニア。しかし、キースは起き上がってはこず、 またすうすうと寝息をたてはじめた。 「な、なんだ、寝言だったの……」  どぎまぎしながら、ソニアは今度こそキースに毛布をかけた。 「あなたにはサイキッカーの未来がかかっています。お身体には気をつけてく ださいね」  眠るキースの耳元でそっとつぶやくと、ソニアは部屋を出た。  翌朝。  キースは目を覚ました。 「う……ん……。いけない、眠ってしまったか……。ん? この毛布は……」  キースの脳裏に、ひとりの女性の姿が浮かんだ。  やさしさとあたたかさのこもった毛布をベッドに戻すと、キースは礼を言う べくキッチンへと向かった。 Fin

1999年3月25日

サイキックフォースが学園ものだったら……

キース「わたしは生徒会長の役なのかな?」
カルロ「そうですね」(←副会長(笑))

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1999年3月19日

おジャ魔女ウェンディー

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                          おジャ魔女ウェンディー
                                        サ イ コ
                      「新装開店! PSYCHO堂!」
                                                        by Master

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   ある日、バーン先輩のことで悩んでいたウェンディーは、あやしい館の前を
  通りがかりました。
   看板には「リチャードウォンの彩弧堂」とあります。

  ウェンディー「『リチャー・ドウォンの彩弧堂』?」

   何気なく入ってみたウェンディー。暗い雰囲気の店のなかにいたのは、あや
  しげなおじさ(サクッ!)……お兄さんと、一匹の猫。

  ウォン「ようこそ、彩弧堂へ。何かお困りのようですね。ここにあるサイコグッ
  ズを買えば、万事解決……」

  ウェン「サイコグッズ!? あなた、もしかしてサイキッカー!」

                                ちゅどーん!!

  ウェン「な、なに!?」
  ウォン「ど、どうしてくれるんですか! あなたのせいで、わたしは『サイコ
  ガエル』になってしまったではありませんか!」
  妖精ソニア(猫に化けていた)「ま、この子にサイキッカーになってもらって、
  元に戻してもらうしかないわね」

   そう、サイキッカーは正体がばれると、サイコガエルになってしまうのだっ
  た!
   というわけで、ウェンディーは『見習いサイキッカー』になることに。

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   しかし、ウェンディーはあっさりとふたりの友達に正体がばれそうに!
   このままではウェンディーまでもサイコガエルになってしまう!

   ウェンディーは二人を彩弧堂へ連れてきて、3人で見習いサイキッカーにな
  ることにしたのでありました(笑)。

                「ぷりてぃ、うぃっちぃ、うぇんっちぃ!!」

                「ぷりてぃ、うぃっちぃ、ぱてぃっちぃ!!」

                「ぷりてぃ、うぃっちぃ、えみりっちぃ!!」

                『あんたは男でしょうがぁ(爆)!!』

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  エミリオ「じゃあ、僕はどんな役で出演すれば?」
  パティ「そうねぇ、金銀といっしょに妖精役は?」
  エミリオ「でもまだ本編には出てないよ?」
  ウェン「じゃあ、今回は出番無し」

   というわけで、エミリオ退場(笑)。続編を書く時まで待っててくれたまえ。
  書くとは思えないが(爆)。

  エミリオ「ぼくって、世界一不幸な美少年かも……」
  栞「ちゅうわけで、あたしの出番やな」

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   では、気を取り直して……。

  ウェン「まずはこの『見習いタップ』の真ん中のボタンを押すんだよ」

                         ぱ~ぱらぱぱっぱ~

        (タップが音楽を奏でながら空中へ飛び上がり、見習い服に変身)

  ウェン「音楽が鳴っている間に服を着るのさ!」

                          ぱらららら~ん!

                「ぷりてぃ、うぃっちぃ、うぇんっちぃ!」

  パ・栞『おお~!』
  ウェン「それじゃ、ふたりともやってみよう!」
  パ・栞『はい、センパイ!』
  ウェン「センパイ~! それ、グゥーッ! もういっぺん言ってぇ!」
  パ・栞『センパァ~イ!』
  ウェン「さいこ~ッ!」
  ウォン「いいかげんにしなさーい!!」

  栞「それじゃ、まずはあたしからや」

                         ぱ~ぱらぱぱっぱ~

                          ぱらららら~ん!

                「ぷりてぃ、うぃっちぃ、しおりっちぃ!」

  パティ「わたしもぉ!」

                         ぱ~ぱらぱぱっぱ~

  パティ「あ、あれ? か、髪の毛……」
        (見習い服に髪の毛が引っ掛かって着替えられないらしい(笑))

                                ぽん!

  パティ「あら?」(着替え失敗)
  ウォン「あら、ではありません! 着替えられるように練習しておきなさい!」
  パティ「はぁーい」

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   サイキックを使うには「サイコ玉」が必要。そして、それはサイコグッズを
  売ったお金でしか買えず、しかもサイコ界(笑)にしか売ってないのでありま
  した。

  ウォン「というわけで、明日からこの店で働いてもらいますからね!」
  ウェン「まあ、それはいいんだけどぉ……」
  パティ「この店ってぇ……」
  栞「やっぱりぃ……」
  3人『ジミよねぇ……』
  ウォン「どぉ~こぉ~がぁ~、ジミだと言うんですかぁ~~~!!!」


  ウェン「……って、ウォンは言ってたけど……」
  栞「アレはマズイやろ、やっぱり」
  パティ「そうねぇ……」

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   というわけで、翌日……

  ソニア「ええ! お店を改装するぅ!」
  ウェン「うん、やっぱりこれじゃあ、ねぇ」
  パティ「材料は自分たちで買ってきましたから」
  ソニア「うーん……。ま、いいか。実はわたしも『趣味悪ぅ~』って、思って
  いたのよねぇ。今日はウォンもいないことだし」

   というわけで、さっそく改装開始!

  栞「まずは、あの看板やな」
  ウェン「彩弧堂はいいとして、あとはいらないんじゃない?」
  パティ「どうせなら、『サイコ』は『PSYCHO』って、アルファベットに
  したらどうかしら?」
  ウェン「それ、いい!」

  ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

  ウォン「な、なんなんですか、これわあぁぁぁぁぁ!」
  一同『おかえりなさーい!』

        (ファンシーショップのようになったPSYCHO堂に驚くウォン(笑))

  ウォン「わ、わたしの店が……。サイキッカーの威厳(笑)というものがまっ
  たく感じられないじゃないですか!」
  ソニア「看板はもっとすごいわよ」
  ウォン「な、なんですってぇ!」

        (カラフルにかきかえられた看板を見て愕然とするウォン(笑))

  ウォン「な、なんてことをするんですか、あなたたちは……(泣)」
  栞「絶対、こっちの方がええって!」
  ウォン「だいたいソニア! あなたがついていながら、どういうことなんです
  か、これは!」
  ソニア「あら、わたしはこの子たちに賛成よ」
  ウォン(があぁぁぁぁぁぁぁぁん!)

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  ウェン「いよいよ、明日から新装開店だね!」
  パティ「わたしたちのお店だもんね」
  栞「ぎょうさんもうけて、サイコ玉しこたま買えるようにしような」

  ウェン「がんばるぞぉ!」
  パ・栞「おお~っ!」

1999年2月24日

ハートのクッキー

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ ハートのクッキー by Master ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 「ただいまー。……まだ帰っていないのかしら……」  帰宅したパティの声は、無人の部屋にむなしく響いた。  パティは、ついひと月ほど前に、マイトという名以外の記憶をなくした少年 と共に暮らすことにした。が、マイトはときどきふらりと何日かいなくなるこ とがあった。  そして今日もまた、マイトは帰っていなかった。 「……お母さんの手掛かりもないし……」  パティは生き別れの母を探していた。生活費を稼ぐためのアルバイトをしな がらの捜索は大変だったが、母に会いたい一心で、必至に情報を集めていた。  だがここのところ、まったく手掛かりすらつかめない状態だった。 「……はぁ……」  居間のソファーに座り込み、落ち込んでいたパティだったが、すぐに頭をぶん ぶんと振り、気を取り直した。 「ええい、こんなことで落ち込んじゃだめよ! ……そうだ、たしか台所に小 麦粉があったわね。マイトも帰ってくるかもしれないし……。ようし、気分転 換に……」  立ち上がったパティはエプロンを着け、台所へと向かった。  それからしばらくして。マイトは玄関の前に帰ってきた。  彼には「マイト」という名前以外に記憶がない。いや、本当はもうひとつだ けあった。それは、パティにも教えていないものだった。 「サイキッカーを倒せ……」  それが彼の全てであった。実際、気がついてから今まで、何人ものサイキッ カーを倒してきた。パティとの生活が始まってからも、それは続いていた。  行き倒れていたマイトをパティが助けたとき、マイトはパティがサイキッカー であることを見抜いた。しかし、なぜか彼女だけとは闘う気にならなかった。  それがなぜなのか、彼自身にもわからなかった。  無言のままドアを開け、玄関をくぐると、甘い香りがマイトの鼻をくすぐっ た。 「……これは……」  マイトは導かれるように、その香りの元へと向かった。そこは台所だった。  テーブルの上にバットが置かれ、そこには焼きたてのクッキーが並べられて いた。 「不思議な…… 匂いだ……」  マイトはゆっくりと手をのばし、クッキーをひとつつかむと、口へと運んだ。 「ああ! マイトったら、だめよ! まだ冷ましてるところだったのに!」  台所に戻ってきたパティは、マイトがつまみ食いをしているのを見てそう叫ん だ。  しかし、マイトは気付かないのか、惚けたような顔のままつぶやいた。 「……うまい……」 「! ……マイト……」  ようやく気付いたマイトがパティの方を向くと、彼女のまなじりに光るもの を見つけた。 「ど、どうしたんだ、パティ」 「だって……。マイトがはじめて『うまい』って言ってくれたんだもん……」  そうだった。  マイトは今までパティが用意してくれた食事も、何も言わずに食べていた。 マイトにとって、食事は単なるエネルギーを得るための手段でしかなかった。  しかし、今回は違った。こころがあたたまるような気がした。 「あ、いや、すまない。しかし、何も泣くことはないだろう」 「……もう……。そういうことはにぶいのね……」  パティはにっこりと微笑んだ。マイトもつられて笑顔になる。前にこんなふ うに笑ったのは、いつだっただろうか。 「ほら、ほっぺたにかけらがついてるよ……。子供みたいなんだから」 「あ、ああ、すまん」 「じっとしてて。取ってあげるから……」  マイトは頬に、やわらかな感触と小さな音を感じた。  こころに広がる不思議な感覚。それが、マイトが目を覚ましてからはじめて 感じた「安らぎ」だった。 Fin.

1999年1月17日

===================================== 駅 by Master =====================================  駅のホームで、あたしは泣いていた。  目の前には大きなスーツケースを持ったお姉ちゃん。 「もう、いつまでも泣いていちゃダメよ」 「でも、でも……」  涙がとまらない。あとからあとからあふれてくる。  今までずっと一緒にいたお姉ちゃんが、遠くに行ってしまう。とてもさみしかっ た。 「だいじょうぶよ。もう会えないわけじゃないし。手紙、書くから、ね」 「う、うん、あたしも……。あたしもきっと書く!」  お姉ちゃんはあたしをそっと抱きしめてくれた。肩が小さく震えている。 お姉ちゃんも、泣いてるの?  列車はお姉ちゃんを乗せて、ゆっくりと走り出した。 どうして、ひとはひとを求めるの? ひととひとが出会えば、 傷つけあうことがわかっているのに。 それはあたしにもわからないな。 でもね、その答えを知ってしまったら、 とてもつまらないと思うけどな。 それでも、ぼくは知りたいんだ。 ひとを傷つける力を持ったぼくが ひとを求めてもいいのかな? どうしてだろう? あのひと、最後にあたしの名前を呼んだ? これ以上は危険だ! ここから先はおれに任せろ! あたしが行かなきゃ……。 あたしが行かなきゃダメなの! あたしがわからないの? きみ、誰だい? ぼくはきみなんか知らないよ。 あなたはすでに彼女に会っているのですよ。 別の姿でしたがね。 まさか……。 まさか、あのひとが! 「いやあああああああああああああああああああああああああああああああっ!」  あたしは目を覚ました。  よく覚えていないけど、なんだかいやな夢を見たような気がする。 ……ンディー…… ……けて…… ……ンディー…… 「誰……? この声……。お姉ちゃん!?」 ……ンディー…… ……けて…… ……ンディー…… 「お姉ちゃん! どうしたの!? お姉ちゃん!!」 ウォ…… 秘密……ノア…… ソニ…… 「何? 何のことなの? お姉ちゃん!!」 もう…… ごめ…… さよな…… 「お姉ちゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」  それから、お姉ちゃんのテレパシーも手紙も、届くかなくなった。  あの駅に、あたしは立っている。  あの時はお姉ちゃんが旅立ったけど、今度はあたしの番。  もう泣かない。お姉ちゃんを見つけるまで、それまでは泣かないって決めたの。 「風よ……。あたしに力を!」  吹きすさぶ風の中、少女は旅立った。  これから先の運命も知らず。