1999年2月24日

ハートのクッキー

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ ハートのクッキー by Master ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 「ただいまー。……まだ帰っていないのかしら……」  帰宅したパティの声は、無人の部屋にむなしく響いた。  パティは、ついひと月ほど前に、マイトという名以外の記憶をなくした少年 と共に暮らすことにした。が、マイトはときどきふらりと何日かいなくなるこ とがあった。  そして今日もまた、マイトは帰っていなかった。 「……お母さんの手掛かりもないし……」  パティは生き別れの母を探していた。生活費を稼ぐためのアルバイトをしな がらの捜索は大変だったが、母に会いたい一心で、必至に情報を集めていた。  だがここのところ、まったく手掛かりすらつかめない状態だった。 「……はぁ……」  居間のソファーに座り込み、落ち込んでいたパティだったが、すぐに頭をぶん ぶんと振り、気を取り直した。 「ええい、こんなことで落ち込んじゃだめよ! ……そうだ、たしか台所に小 麦粉があったわね。マイトも帰ってくるかもしれないし……。ようし、気分転 換に……」  立ち上がったパティはエプロンを着け、台所へと向かった。  それからしばらくして。マイトは玄関の前に帰ってきた。  彼には「マイト」という名前以外に記憶がない。いや、本当はもうひとつだ けあった。それは、パティにも教えていないものだった。 「サイキッカーを倒せ……」  それが彼の全てであった。実際、気がついてから今まで、何人ものサイキッ カーを倒してきた。パティとの生活が始まってからも、それは続いていた。  行き倒れていたマイトをパティが助けたとき、マイトはパティがサイキッカー であることを見抜いた。しかし、なぜか彼女だけとは闘う気にならなかった。  それがなぜなのか、彼自身にもわからなかった。  無言のままドアを開け、玄関をくぐると、甘い香りがマイトの鼻をくすぐっ た。 「……これは……」  マイトは導かれるように、その香りの元へと向かった。そこは台所だった。  テーブルの上にバットが置かれ、そこには焼きたてのクッキーが並べられて いた。 「不思議な…… 匂いだ……」  マイトはゆっくりと手をのばし、クッキーをひとつつかむと、口へと運んだ。 「ああ! マイトったら、だめよ! まだ冷ましてるところだったのに!」  台所に戻ってきたパティは、マイトがつまみ食いをしているのを見てそう叫ん だ。  しかし、マイトは気付かないのか、惚けたような顔のままつぶやいた。 「……うまい……」 「! ……マイト……」  ようやく気付いたマイトがパティの方を向くと、彼女のまなじりに光るもの を見つけた。 「ど、どうしたんだ、パティ」 「だって……。マイトがはじめて『うまい』って言ってくれたんだもん……」  そうだった。  マイトは今までパティが用意してくれた食事も、何も言わずに食べていた。 マイトにとって、食事は単なるエネルギーを得るための手段でしかなかった。  しかし、今回は違った。こころがあたたまるような気がした。 「あ、いや、すまない。しかし、何も泣くことはないだろう」 「……もう……。そういうことはにぶいのね……」  パティはにっこりと微笑んだ。マイトもつられて笑顔になる。前にこんなふ うに笑ったのは、いつだっただろうか。 「ほら、ほっぺたにかけらがついてるよ……。子供みたいなんだから」 「あ、ああ、すまん」 「じっとしてて。取ってあげるから……」  マイトは頬に、やわらかな感触と小さな音を感じた。  こころに広がる不思議な感覚。それが、マイトが目を覚ましてからはじめて 感じた「安らぎ」だった。 Fin.

1999年1月17日

===================================== 駅 by Master =====================================  駅のホームで、あたしは泣いていた。  目の前には大きなスーツケースを持ったお姉ちゃん。 「もう、いつまでも泣いていちゃダメよ」 「でも、でも……」  涙がとまらない。あとからあとからあふれてくる。  今までずっと一緒にいたお姉ちゃんが、遠くに行ってしまう。とてもさみしかっ た。 「だいじょうぶよ。もう会えないわけじゃないし。手紙、書くから、ね」 「う、うん、あたしも……。あたしもきっと書く!」  お姉ちゃんはあたしをそっと抱きしめてくれた。肩が小さく震えている。 お姉ちゃんも、泣いてるの?  列車はお姉ちゃんを乗せて、ゆっくりと走り出した。 どうして、ひとはひとを求めるの? ひととひとが出会えば、 傷つけあうことがわかっているのに。 それはあたしにもわからないな。 でもね、その答えを知ってしまったら、 とてもつまらないと思うけどな。 それでも、ぼくは知りたいんだ。 ひとを傷つける力を持ったぼくが ひとを求めてもいいのかな? どうしてだろう? あのひと、最後にあたしの名前を呼んだ? これ以上は危険だ! ここから先はおれに任せろ! あたしが行かなきゃ……。 あたしが行かなきゃダメなの! あたしがわからないの? きみ、誰だい? ぼくはきみなんか知らないよ。 あなたはすでに彼女に会っているのですよ。 別の姿でしたがね。 まさか……。 まさか、あのひとが! 「いやあああああああああああああああああああああああああああああああっ!」  あたしは目を覚ました。  よく覚えていないけど、なんだかいやな夢を見たような気がする。 ……ンディー…… ……けて…… ……ンディー…… 「誰……? この声……。お姉ちゃん!?」 ……ンディー…… ……けて…… ……ンディー…… 「お姉ちゃん! どうしたの!? お姉ちゃん!!」 ウォ…… 秘密……ノア…… ソニ…… 「何? 何のことなの? お姉ちゃん!!」 もう…… ごめ…… さよな…… 「お姉ちゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」  それから、お姉ちゃんのテレパシーも手紙も、届くかなくなった。  あの駅に、あたしは立っている。  あの時はお姉ちゃんが旅立ったけど、今度はあたしの番。  もう泣かない。お姉ちゃんを見つけるまで、それまでは泣かないって決めたの。 「風よ……。あたしに力を!」  吹きすさぶ風の中、少女は旅立った。  これから先の運命も知らず。

1999年1月 3日

お歌の国のパティちゃん

=================================== お歌の国のパティちゃん by Master ===================================  この作品はフィクションであり、実在する「サイキックフォース」「超鋼戦 記キカイオー」とはまったく関係ありません(笑) =================================== ここより入る者、すべての希望を捨てよ LOVE1 音感少女来襲!! パティ「やっほー、カルロさん! ウワキしていなかった?」 カルロ「はあ? ……あなた、どなたです? 年上の相手を気安く呼ぶのは感 心できませんね」 パティ「パティのこと忘れちゃったの? じゃあ思い出させてあげる! 音珠!  やっちゃえー!」 カルロ「なんですって?」 戦闘シーンへ カルロ「くうう……。 このわたしが負けるとは……」 パティ「愛の力はムテキなのよ! おとなく観念しなさい!」 レジ-ナ「……カルロ兄さん、その子だれ?」 パティ「フィアンセのパティよ」 カルロ「だれがフィアンセですか! 新生ノアの基地まで勝手についてきて… …!」 パティ「照れなくてもいいのよ☆」 カルロ「照れていません!」 レジーナ「……カルロ兄さんのロリコンーっ!」 カルロ「ま、待ちなさい、レジーナ!」 LOVE2 愛の金字塔 パティ「カルロさんは、やっかいごとを引き寄せる『とくいてん』なの。だか らお歌の国から来たのよ。パティが守ってあげるね!」 カルロ「というより、あなたがすでに厄介です! レジーナは会ってもくれな いし……」 ウェンディー「こんにちは、サイキッカーです。はるばる愛を伝導に来ました」 カルロ「はあ?」 ウェンディー「あなた、愛に飢えていますね? さあ、愛の教団『バーンエミ リオ教』へ入信を! バーンの炎とエミリオの光こそ、愛の印! 今なら多宝 塔の置物と、幸せの壺をひとつ200万円でプレゼント☆」 カルロ「いきなりなんなんですか、あなたは!」 パティ「そこまでよ! あやしい宗教団体のくせにずうずうしい! 表へ出な さい!」 戦闘シーンへ パティ「年増の熟れた肉体(笑)でまどわそうったって、そうはいかないわ!  どう? やわらかいでしょ?」 カルロ「うっ!」 ウェンディー「それならあたしだって……。ほら、どうかしら? さあ、さあ!」 カルロ「ちょ、ちょっと……」 レジーナ「……………………」 カルロ「はっ! レジーナ! いつの間に!?」 レジーナ「3人プレイだなんて……! カルロ兄さんの色情狂っ!」 カルロ「ま、待ちなさいーっ!」 LOVE3 侵略者を撃て! パティ「ウェンディーおねえちゃん、あたし、ピーマンきらい~」 ウェンディー「好き嫌いしちゃだめよ。カルロさん、おかわりは?」 カルロ「きみたち、基地にいつくんじゃありません!」 ソニア「あのー、旧ノアの手先ですけど…… 新生ノア壊滅に来ました」 カルロ「間にあってます」 ソニア「そんなこと言わないで! この洗剤とチケットもつけますから」 カルロ「いいから帰ってください」 ソニア「いま壊滅されれば、もれなくこの幸せのペンダントがついて……」 パティ「カルロさんをたぶらかす悪女! ゆるせないわ! やっちゃえ音珠!」 戦闘シーンへ パティ「これにこりて、ひとの男に手を出そうなんて考えないことね!」 ソニア「あのー、でもわたし困るんです。壊滅できないと叱られるんです」 カルロ「はあ、そうなんですか……」 ソニア「ウォンさまはとても残忍なお方なんです……。この前も、一軒も壊滅 できなかったブラドが、おやつ抜きに……!!」 レジーナ「……兄さん、また女の人が増えてるわね……」 カルロ「れ、レジーナ!? ち、違うんです、これにはわけが……!!」 レジーナ「カルロ兄さんの好色一代男ーっ!!」 カルロ「待ってください、レジーナーっ!」 パティ「……やーねぇ、女のヒステリーって」 LOVE4 さらば、パティ カルロ「あのー、ソニアさん? そんなにくっつかれると……」 ソニア「カルロさんの背中ってあたたかい……」 パティ「なにベタベタしてんのよ、この電気女!」 パティ「カルロさんもデレデレして! あたしたちの愛はうそだったの?」 カルロ「そんなものは最初からありません!!」 パティ「ひどいっ!! パティはいらない子なんだー!!」 ウェンディー「あっ、パティちゃん? お夕飯までには帰ってくるのよ!」 パティ「わーん!! カルロさんの…… バカバカバカバカーーーーっ!!」 刹那「うわっ、なんだおまえは!」 戦闘シーンへ カルロ「どうも、うちのパティが迷惑をおかけしたようで……」 パティ「パティわるくないもん……」 カルロ「こら、ちゃんとあやまりなさい!」 ガデス「まあ、気にするなって。おもしろかったしよ」 刹那「ちゃんとしつけておかないか、まったく……」 ガデス「おいおい……」 カルロ「さあ、帰りますよ、パティ……。心配したんですからね」 パティ「……! うん!」 カルロ「やれやれ……」 LOVE5 地球が静止する日 栞「こんにちはー。正義の味方でーす」 カルロ「うちはノア新聞しか取っていませんよ…… って、栞さん!?」 栞「カルロさん、地球のためよ! その子には死んでもらうわ!」 カルロ「何を言っているんですか!?」 パティ「カルロさん、さがってて! いくわよ、音珠!!」 カルロ「パティ、やめなさい!!」 戦闘シーンへ 栞「おしまいだわ…… 何もかも!!」 カルロ「さっきから何をおっしゃっているのです?」 ウェンディー「あれは!?」 ソニア「サイキッカーハンター」 マイト「よくやった、パティ。 新生ノアをバラバラにし、カルロまでも骨抜 きにするとは」 カルロ「なんですって! 本当なのですか、パティ!!」 パティ「……あ……! う……」 マイト「新生ノアの皆様。単刀直入に言うが、おれに斬られろ。命令だ!」 LOVE FOREVER たったひとつの冴えたやりかた レジーナ「カルロ兄さん、ムチャよ!!」 マイト「ははは、キースの復帰していない新生ノアなど、赤子も同然!」 カルロ「しかし、まだ手はあります!! 新生ノア最後の必殺技が!!」 ウェンディー「まさか、カルロさん……!」 栞「基地を自爆させる気!?」 ソニア「カルロさん!!」 パティ「マイト、ごめんね」 マイト「どうした、パティ?」 パティ「パティはやっぱり、カルロさんのことが好きなの」 マイト「パティ!?」 戦闘シーンへ パティ「カルロさん、パティはマイトをつれてお歌の国に帰ります。ここにい たらカルロさんの迷惑になるから……」 カルロ「パティ……」 パティ「カルロさん、さよなら……」 カルロ「パティーっ!!」 エンディング カルロ「パティ……。 急にいなくなることはないじゃないですか……」 パティ「ただいまー」 カルロ「ただいまって…… パティ!?」 パティ「ごめんなさい。やっぱり帰れなかったー」 マイト「いやあ、申し訳ない。母ともどもしばらくお世話になります、お父さん」 パティ「カルロさん、さみしかったでしょ? かくさなくっていいのよ」 カルロ「そ、そんなわけないでしょう!」 栞「なんにせよ、めでたしめでたしね」 ウェンディー「はーい、みなさん、お夕食ですよー」 ソニア「あたたかい……」 カルロ「あなたたち、いいかげんに帰ってください!」 レジーナ「兄さん……! 大人気ね……!」 カルロ「はっ、レジーナ……!」 レジーナ「カルロ兄さんの、女殺油地獄ーっっ!!」 カルロ「待ってくださいレジーナ! レジーナーっ!」 パティ「カルロさん、だーいすき!!」

1998年4月20日

ポケットサイキッカー

☆Episode1  「その力、人の平穏乱すものじゃ! 使ってはならぬ!」  「何を言っているの。あたしのじゃまをしないで!」  「無念じゃぁ~!」  「今はまだ、この力(ケーブル)が必要なの……」 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ ☆Episode2  「あなたは、まだキースの所にいるのですか……」  「逃げてくれ! エミリオ! ぼくの中の悪魔が目覚める前に……」 『うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』  「やい、エミリオ! 今買ったばかりの『ポケットピ○チュウ』よこしな!」  「だ、だめだよ! これはウェンディーに頼まれて……」  「やかましい! そんなのオレの知ったことじゃねェ!」  「うわーん! 光よ!」 ぴかぁ~~っ!  「ああ、また……。こんな力(グッズ)があるから……」 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆  Episode3  カプセルが開き、ソニアはゆっくりと目を開いた。  「今日のメンテナンスは終わりました。もういいですよ、ソニア。そうそう、 あなたのサイキックパワーを上げる『サイキック強化スーツ』ができています から、それを着なさい」  「はい、ウォンさま」  ソニアはウォンに手渡された黄色いスーツを身に着けた。  「ウ、ウォンさま、こ、これは……」  「うむ、よく似合いますよ、ソニア」  耳カバーには黄色と黒に塗分けられたうさぎのような耳が。そして、スーツ のおしりには稲妻をかたどったようなしっぽがついていた。  そう、まるで「ピ○チュウ」のコスプレのようだった。  「そのスーツを装着したあなたを『ソニチュウ』と呼ぶこととします。今強 化型の『ラ○チュウ』型のスーツも開発中ですから、楽しみにしていなさい、 ソニチュウ」  「いやあの、それよりも、その呼び名はちょっと……」  「ソニアのメンテナンスはもう終わったのか?」  キースとブラドが部屋に入ってきた。  「キッ、キースさまっ!」  「ああ、これはこれはキース様。今はソニアではなく、ソニチュウですよ」  「なに?」  恥ずかしい姿を最愛のひとに見られて、真っ赤になっているソニア、いや、 ソニチュウを、キースは見つめた。  「か、かわいい……」  「え?」  「よく似合うよ、ソニア……。いや、今はソニチュウだったか」  「は、はい! わたしはキースさまのソニチュウです☆」  いきなりラブラブモードに入るふたり。  ウォンはすでに次のスーツの設計作業をしていた。  「ケッ! なあにが『ソニチュウ』だか」  ブラドはゲー○ボーイを取り出しながらつぶやいた。  「やっぱポ○モンっつったら『イ○ツブテ』に決まってるだろうが!」 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆  Episode4  ゲイツには目的があった。  最愛の妻と娘を奪ったサイキッカーどもを根絶やしにすること。  そして、娘が死の間際につぶやいたあの言葉。 『図鑑が……』  ゲイツはセンサーを作動させ、そのふたつを持った相手を探す。  『(ポ○モン所有の)サイキッカー発見……。捕獲(ゲット)する……』 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆  Episode5  「バーン、これが最後だ。同志となれ」  「キース! おまえは間違っている! 目をさませ!」  「おまえのその『ミュ○』、それで図鑑が揃うのだ。さあ、バーン!」  「いいかげんにしろ! おれがどれだけ苦労してこいつを手に入れたのか、 おまえにわかるか! 夜も寝ないで昼寝して、バイトでかせいだ金を『コ○コ ○コミック』につぎ込んで、ようやく当選したんだ! そう簡単に渡してたま るか!」  「しょせんは炎(赤)と氷(青)。交わることはないのかもしれんな……」  今、最後の闘い(笑)が始まる……。 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1998年3月 2日

風の娘ウェンディー 帽子っ娘大作戦!

   ----------------------------------------------------------    サイキックフォースレプリカントシリーズ アナザーストーリー    ----------------------------------------------------------    「風の娘ウェンディー 帽子っ娘大作戦!」 Master    **********************************************************  「ねぇ、起きてよぉ。起きてってばぁ!」  たまの休日。ひとが寝ている布団の上で、彼女が騒いでいる。  「ん~。もうちょっと寝かせてくれよぉ」  「なによぉ。今日は遊びにつれてってくれるって言ってたじゃない」  「あー、わかったわかった。今起きるから」  身体を起こすと、布団の上に乗っていた「23cmほどの彼女」は、台所へと向 かった。  「早くしてよねー、お兄ちゃん☆」  やれやれ。  20XX年。タイトーは「サイキックフォース・レプリカントシリーズ」を発売 した。  ようするにビデオゲーム「サイキックフォース」に登場したキャラクターの ぬいぐるみ人形なのだが、なんと彼らは自分で考え、話し、行動するのである。 体型はデフォルメしてあり、身長は25cm前後。  基本的な性格はあらかじめ入っているのだが、育てかたによってさまざまに 成長していく。  キャラクターの能力にそった各種オプションや、レプリカント同士を会わせ るとゲーム「サイキックフォース」のシーンを再現するストーリーオプション など、まさにサイキックフォースファンのための商品である。  まあ、お値段の方もけっこうするのだが。  発表された時には、パソコン通信「NIFTY SERVE」にある「サイキックフォー スパティオ」には、ものすごい反応があった。発売後も入手報告や、子育て日 記(笑)などが書き込まれ、現在は別に「レプリカントパティオ」が開設され ているくらいだ。特にエミリオやウォンなどの人気キャラクターは独立したパ ティオが作られている。  わたしは緑の1Pウェンディーを買った。  ウェンディーは他のキャラのレプリカントよりも動きが素早い。また、やや 勝気な基本性格になっている。  ウェンディーは、いっしょに生活しているうちに、いろいろな言葉や物事を 覚えていった。そのうち、なぜか彼女はわたしを「お兄ちゃん☆」と呼ぶよう になった。  こうして、今の「わたしの」ウェンディーがいるのである。  台所に行くと、ウェンディーが紅茶を煎れてくれていた。といってもティー バッグをカップに入れ、ポットのボタンを押すだけなのだが。ティーバッグを 取り出し、牛乳を入れるのはわたし自身である。  新聞を読みながら朝食を食べている間、ウェンディーはテーブルに腰掛け、 テレビのニュース番組を見ていた。もちろんレプリカントに報道内容が理解で きるはずがないのだが、言語プログラムの更新にはいいのかもしれない。  食後に歯を磨いて顔を洗い、着替える。  その間、ウェンディーは鏡を覗いて、髪を整えていた。ファッションには無 頓着なわたしが育てている割に、身なりはきちんとする方だ。女の子なので、 そういうプログラムが組まれているのかもしれない。  「ウェンディー、行くよ」  「はーい、待ってぇ」  てててっ、と廊下を駆けたあと、ウェンディーはジャンプをした。そのまま ふわりと宙に浮かび、わたしの頭の上に移動した。ここがウェンディーのお気 に入りの場所らしい。  「いってきまーす」  わたしはウェンディーを頭に乗せたまま、玄関から出た。  レプリカントは当然ながら空を飛べない。せっかくサイキッカーを模してい るのに、ちょっとさみしかった。  そこで、わたしは「重力制御ユニット」をウェンディーに組み込んでやった。 ユニットは開発されたばかりで、まだまだパワーが小さいのだが、レプリカン トを浮かせるくらいなら充分に使えた。  先日、タイトーにメンテナンスに出すときに外し忘れたのだが、ちゃんと返っ てきた。いつもよりもやや時間がかかったことから見て、少々研究されていた のだろう。ブラドの次バージョンには、重力制御オプションが組み込まれてい るかもしれない。  電車とバスを乗り継ぎ、市内へと向かった。  車内でもウェンディーはいろいろと話しかけてくる。それに受け答えするの は楽しいのだが、やはり視線が気になる。はたから見れば、人形とおしゃべり しているようにしか見えないわけだし。  別にはずかしいわけではないが、注目を集めたいわけでもない。  紙屋町でバスを降りると、後ろから声がした。  「あれ、先輩じゃないですか。どうしたんすか、こんなとこで」  振り向くと、自転車に乗った高校からの後輩がいた。  「いや、休みでヒマなんで、こいつを連れて遊びに来たんやけど。お前は?」  「明日から出張なんで、その準備なんすよ。あいかわらず仲いいっすねぇ」  「まあな」  わたしは苦笑いをしながら答えた。  「あ、いっけねぇ、間に合わん。じゃ、失礼しまーす」  「おう、じゃあな」「ばいばーい」  ウェンディーはわたしの頭の上で手を振っていた。  「やれやれ、あいかわらずなヤツだ」  「そうねぇ~」  わたしは再び歩き始めた。  デパートに入る。本屋で軽く物色したあと、ゲームコーナーへ向かった。同 じ階にあるので便利だ。  プロジェクター台に「サイキックフォース」が入っている。反対側にある 「サムライスピリッツ(もちろん初代)」にも心ひかれるが、とりあえずここ はインカムに貢献しなければなるまい。  ウェンディーを選び、ゲームが始まる。  「ほら、そこ! そうじゃないって! ああん、なんでそうなるかなぁ~」  「あー、もー、ゲームくらい好きにやらせてくれぇ!」  「でもこれあたしだもん! あ、ほらぁ、バーンに負けちゃったぁ」  非常ににぎやかに遊ぶわたしたちであった。  昼近くになり、地下のファーストフードショップへ向かった。チーズバーガー のセットを買い、席に着く。  ウェンディーはテーブルの上にぺたりと座り込み、フライドポテトを食べて る。わたしはフライドポテトはあまり好きではないのだが、彼女のためにセッ トで買ってやった。  レプリカントは、いちおう食事ができる設計になっている。といっても消化 できるわけではなく、あとから取り出す必要がある。  メンテナンス用のハッチは普通おなかにあるそうなのだが、ウェンディーは 背中にある。おなかを出したファッションなので、見栄えがよくないからであ ろう。上着を着せれば半分はかくれる。  ウェンディーは上着を脱がせればすぐにハッチを開けることができるが、や やこしい服を着ているバーンやキースは、かなり大変だということだ。  わたしはカップに残ったホットティーをすすりながら、本を読んでいた。ポ テトを食べおわったウェンディーは、紙ナプキンで手を拭き、テーブルの上に 立ち上がる。  「さ、そろそろ行きましょ☆」  「はいはい、お嬢様」  トレイを持ち、わたしは席を立った。  午後から市内を適当に歩き回った。  パソコンショップやゲームショップ、アニメショップなどに入り、ぶらぶら と見て回った。  なにかいいものがあれば買い物もしたのだが、これといったものはなかった。  それでもめったにこういったところに来ないウェンディーにはめずらしいも のが多かったらしく、しきりにわたしに話しかけてきた。  「んー、もうこんな時間かぁ。そろそろ帰ろうか」  「はーい」  夕方も近くなり、わたしはバス停のある通りに向かって歩きだした。ウェン ディーはあいかわらずわたしの頭の上だ。  「うわっ!」「きゃっ!」  突然、強い風が吹いた。春一番か? もうすぐ春なのかな。  「あっ! 帽子がぁ!」  急に頭の上が軽くなった。振り向くと風に飛ばされたらしい帽子を追って、 ウェンディーが向こう側に飛んでいくのが見える。  「あ、おい、ウェンディー!」  わたしはあわててウェンディーを追いかけた。  角を曲がると、歩道の橋でしゃがみこんでいるウェンディーを見つけた。  「ウェンディー、こんなところにいたらあぶないぞ・・・」  振り向いた彼女は、目に涙をため、今にも泣きだしそうだった。  「お兄ちゃん・・・。これ・・・」  ウェンディーが差し出したのは、車にひかれたのであろうか、ぺしゃんこに なった彼女の帽子だった。  「ごめんなさい・・・。この帽子、お兄ちゃんのお気に入りなのに、こんな になっちゃって・・・」  わたしは微笑んで、ウェンディーの頭をくしゃくしゃっと撫でてやった。  「ばかだな。帽子ならまた買えばいい。おまえが無事でよかったよ」  「お兄ちゃん・・・。ありがと」  ウェンディーは涙を流しながら、でも笑顔で、そう言った。  街が夕焼けに染まるころ、わたしは再びバス停に向かって歩きだした。  「ねえ、お兄ちゃん☆」  「んー」  ウェンディーは頭の上から話しかけてきた。  「あたしね、お兄ちゃん、だーいすきっ☆」  わたしからは見えないのに、心にウェンディーの笑顔が浮かんだ。  「・・・わたしもだよ」  「え、なに? お兄ちゃん。聞こえないよぉ」  「なーんでもないっ!」  「ええー、ずるーい、聞かせてよぉ、お兄ちゃん☆」  わたしはテレ隠しに走りだした。  どうやら彼女との生活は、長いものになりそうだ。

1998年1月31日

荒木飛呂彦のサイキックフォース

***********************************  プレイヤーA「ガードボタンを押しながらレバーを回すそのテクニック!  きさま、このゲームをやり込んでいるな!」  プレイヤーB「答える必要はない!」 ***********************************  カルロ「さあ、きみの番だ、旋風寺舞人くん」  マイト「間違えるな、おれはマイトだ」  カルロ「おっと、失礼、天空の当麻くん」  レジーナ(ニヤリ! わざと名前を間違えて焦らせる作戦! さすが兄さん!) ***********************************

1998年1月19日

車田正美のサイキックフォース2012

 カルロよ・・・。聞こえるか、カルロよ・・・。  「わたしのテレパシーに直接語りかけるその声は、キース様?」  そのとおりだ。きみにちょっと助けてもらいたいのだ。実はすごくめんどう なところに埋まってしまってね。  「フッ。あなた様なら、わたしの力など借りなくとも戻って来られるはずで はありませんか」  いや、わたしひとりならばよいのだが、どうしても助けたい者がいるのだ。 サイキッカーの中でも並外れたサイコキネシスを持つのはきみだけだ。頼む、 話はあとでする。  「わかりました。ノア本部跡地に戻せばよいのですね」 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ シュウゥゥゥゥ・・・・・  「喝!」  「うっ・・・」  「気がついたか、バーン」  「う・・・こ・・・ここは元のノア本部・・・?」  「今は説明している暇はない。ウォンの間へ急ぎたまえ」  「ウォンの間へ・・・」  「そうだ。今ウェンディーがひとりで苦戦中のはず。時間もあとわずかしか ない」  「ウ・・・ウェンディーがひとりで・・・」  「きみのフェニックスの力は自己修復能力を持っているのだったな。死して もまた灰のなかからよみがえる。ひとにぎりの灰さえあれば、フェニックスは またはばたくのだ」  「お・・・おお・・・」  フェニックスの前髪がふたたびオレの身体に蘇った! しかも以前にも増したこの美しさと輝きはどうだ!! これがフェニックスの新前髪!